医者

そもそも私は、医者、弁護士、警察官、教師という職業に就いている人をこれまであまり尊敬出来ないでいました。
学校を出てろくに社会経験もないのに、すぐに「先生」と呼ばれたりして一目置かれるから本人もその気になってしまうのでしょう。
大した能力もないのにプライドだけ高い人が多い。
ところが、今回祖母を看取ってくれた先生、この人はちょっと違いました。


祖母は昨年暮れに肺炎を患い、誰が見てももうダメだという状態でしたが、この先生だけは必死でした。
非番であるにもかかわらず、一晩中ずっと付いてくれていて治療を続けてくれたんです。
そして見事に復活。
回復はしたものの、年齢的には97歳の高齢ですから、常に予断は許さない状態。
先生は「僕が最後まで面倒見させて貰います」と言って下さり、事実最後の最後まで最大限の努力を続けてくれました。


とにかくいつ寝ているのか?と思うほどよく働きます。
当直の日、ちゃんとベッドで仮眠すればいいのに、見るとナースセンターの事務椅子に腰掛け机に肩肘ついてうつらうつらしているだけだったり。
「大変ですねえ」というと「いえ、これが私の仕事ですから」ときっぱり。
おいらにはとても真似できません。


そしていよいよ祖母の心臓が止まってしまったその夜、先生はなんとか再度復活させようと心臓マッサージを始めました。
およそ1時間半にわたる必死の蘇生術。
時々他の先生と交代するものの、殆どその先生が続けてくれました。
想像してみて下さい。心臓マッサージは自転車の空気入れをポンピングするくらいの力を使います。
それを1時間半も続けられますか?
しかも、全治する可能性の少ない97歳の老人にです。
先生は、もう汗びっしょり。

臨終の際には汗だくで息を切らせながら「残念です、力が及びませんでした。申し訳ありません」と言って下さたのですが、集まっていた親族はずっとその様子を見ていたので、祖母を失った悲しみより、先生に対する感謝の気持ちで一杯になりました。

仕事に対する誇り、使命感、これほど凄い医師に出会ったのは初めてです。