あってはならないこと

天候に恵まれなかったとは言え、それはそれなりに楽しかった今年の北海道。でも、最後の最後で嫌な思いをしてしまいました。
この事件は書くまいと思っていたのですが、一週間が経過してもあのシーンが頭から離れず、何度も夢にまで出て来ます。
なのであえて書こうと思います。



その日は道内最終日。
鶴居のキャンプ地を出て、鶴見峠のダートを楽しみ、オンネトーを経て足寄経由でフェリーに乗るため、苫小牧を目指していました。
足寄に向かうR241は豪快な直線路が続く北海道らしい道です。
交通量も少なく、前にも後ろにも車がいない状態が10分以上続くなんて事も珍しくありません。
なので、自然スピードも上がり、おいらも取り締まりを気にしてバックミラーをチョコチョコ覗きながら、制限速度をかなりオーバーして走っていました。


と、突然、物凄い勢いでバイクに抜かれました。
後ろを気にしているのに全く気付かないくらいですから、その速度差は相当あったと思われます。
おそらく120〜130キロくらいは出ていたかと・・・。


あぶないやっちゃなぁと思いながらも、非力なセローで付いていけるわけも無く、その後もおいらはそれまでの速度を維持して走行を続けました。


足寄の街が近づくとそれまでの直線ばかりだった道路がややカーブが増えてきます。
制限速度も50キロに。
北海道はこの制限速度が急に落ちるところが一番危ない。
そして、ある大きなブラインドコーナーを曲がりきった時でした。
目の前の信号の無いT字路に、トラックが道をふさぐように止まっています。
カーブを曲がりきるまで見えなかったので、思わず急ブレーキ!。
何とか止まりきり、何事かと思ってみると、トラックの右前輪に先ほど抜いて行ったCBが突き刺さっています。


事故?

見ると、漏れたガソリンとクーラントが鼻を突き、10mほど離れたところにそのバイクのライダーと思われる人が倒れていました。
あわてて、セローを路肩に寄せ、駆け寄ると・・・

手足はあらぬ方向に折れ曲がり、ヘルメットをかぶったままあお向けのライダーは、口と鼻から血を流し、その血がカッと見開いた目にたまっていました。
まだ息はありましたが、頭を強打したのか、まるで脳出血で倒れた人のように大きなイビキをかきながら、不自然な呼吸をしていました。
瞳孔も完全に開いていて、あ、こりゃダメだな、と直感的に思いました。


当事者であるトラックドライバーは完全に動揺していて、自分の携帯を握り締めながらもおいらに「警察呼んでくれ」と頼んできました。
「けが人がいるんだ。警察より救急車でしょ」と言っても上の空で、結局おいらが119番、その後通りがかった人が110番に連絡。


警察が来るまでにおよそ5分。救急車も10分後くらいには到着しましたが、その間にもライダーの呼吸が弱くなっていくのがわかりました。


救急隊が救命作業をしている間、第一発見者のおいらは警察から簡単な事情聴取。しかし、船の時間が迫っていたので、何かあれば後で電話するということで開放されました。


走り出してすぐ、先ほどのライダーを乗せた救急車がおいらを追い抜いていきました。その音がなんとも切ない音色に聞こえたのを覚えています。


開放はされたものの、そんな現場を見てしまったおかげで、それまでの楽しいツーリング気分は完全に吹っ飛び、鬱々としながら苫小牧に到着しました。
乗船手続きを終え、ふと携帯を見ると110番からの着信履歴。
こちらからかけてみると、やはり先ほどのライダーは亡くなったそうです。
三重県からのツーリングライダー、享年49歳。
現場で聞かれたのと同じことを聞かれ、同じように答えて電話を切りましたが、気分は一気にブルーに。

雨が上がって港上空にかかった素晴らしい虹も、あのライダーが天に昇って行くための通り道にしか見えなくなりました。


北海道はバイク乗りにとってはまさに夢の楽園。だがしかし、その高い巡航速度はひとたび事故を起せば、即死に繋がります。
彼もせめておいらと同じくらいのスピードで走っていれば、死ぬことは無かったろうに。49歳といえば家族もあるでしょう。残された家族のことを思うとやり切れません。


トラックドライバーも気の毒。おいらはぶつかった瞬間は見ていないのですが、あの速度でブラインドコーナーの向こうから突っ込んでこられては避けることは出来なかっただろうし、いくら右直事故は責任ゼロにはならないといっても、現行犯逮捕という現行法規の対応にも疑問が残ります。


ともあれ、バイク乗りは絶対にバイクで死んではいけません。
本人はもちろん、危険な遊びを心配する家族や友人にとっても、最も不幸な死に方だと思うからです。


もう、あんなシーンを目の当たりにするのは嫌です。
みなさん、安全運転しましょうね。